信州建築視察。

10月に毎年恒例となった下新川建築士会の建築視察に行ってきました。今年は信州視察旅行という事で、白馬村と長野市の建築物を見てきました。一件目は、隈研吾建築都市設計事務所がデザイン監修した白馬村の「snow peak ランドステーション白馬」です。レストラン、スノーピークのショップ、スターバックスが入っている商業施設で、敷地内には芝生の広場やキャンプの体験施設も併設されています。白馬連峰をイメージしたような屋根の形状と、隈建築らしい立体格子が取り付けられた外観が特徴的です。スタバのみ開店している時間帯でしたが、朝のコーヒーを楽しむ人で賑わっていました。近年の外国人観光客の増加や外資系ホテルの進出など「第2のニセコ」と呼ばれる白馬村らしく、駅前周辺からこちらの施設に移動する間にも、数多くの外国人を見かけました。白馬村の昨年の最高路線価上昇率は32.1%と全国一の上昇率で、地価上昇による相続税の高騰など、地域住民の生活に支障が出るようなオーバーツーリズムも課題となっているようです。富山も自然環境や食では負けていないと思うので、もう少し上手にアピールできれば認知度も上がるのではないでしょうか。


白馬村での見学先は一箇所の予定でしたが、時間に余裕ができたため「青鬼集落」を散策することができました。白馬村北東の標高約760mに位置する青鬼集落は、14棟の茅葺き家屋(現在は鋼板葺き)を主体とした重要伝統的建造物群保存地区です。家屋郡と棚田による里山、北アルプスの山並みが一体となり、季節ごとに表情を変えた風景の魅力がありそうです。隅々まで散策する時間はありませんでしたが、階段を上った先にある青鬼神社など、改めてゆっくり見学したいと思いました。


長野市に移動して次は「OYAKI FARMおやきファーム」の見学です。おやきの製造販売を長野県内で展開している「いろは堂」の店舗兼工場で、設計は土の建築で有名な遠野未来建築事務所です。敷地内に入ると、木造の柱とガラススクリーンが連続するファサードが見えてきます。太鼓材になっている柱は一本一本の表情が微妙に違い、下部コンクリートの高さの変化や曲面形状のファサードの効果も相まって、自然造形物のような印象を受けます。中央の円柱状のエントランスは土の版築構造で、基礎工事の建設発生土を再利用しています。先日閉幕した大阪・関西万博2025においても、3Dプリンタで土壁が出力されたトイレがありましたが、永遠にリサイクル可能な唯一の素材とも言われる土の可能性をもっと見直す必要があるのかもしれません。内部に入ると、すべて手刻みで組み上げられた長野県産材の木造架構が吹抜空間に現しになっています。木や土といった自然素材が、柔らかな形状と共鳴している内部空間でした。店舗には様々な種類のおやきを買い求めに行列ができており、屋上のテラス席ではコーヒーとおやきを食べることができます。工場見学をする時間まではありませんでしたが、地域の自然の恵みを活かした建築とおやきを楽しむことができました。




次の見学先は、宮崎浩/プランツアソシエイツの設計による「長野県立美術館」です。2021年に長野県信濃美術館の建て替えという形で誕生しています。隣接して渡り廊下で連結されているのが「東山魁夷館」で、谷口吉生建築設計研究所の設計により2019年にリニューアルされています。善光寺を眺望する屋上広場の風テラスから入館し、東山魁夷館開館35周年記念展が開催中の展示室では、大小様々な作品を鑑賞することができました。連結ブリッジから東山魁夷館へ移動すると、塀で囲まれた中庭と池があります。以前の金沢視察旅行で訪れた、「鈴木大拙館」や「金沢建築館」でもこれらの構成が見られましたので、谷口建築の得意技と言えるのかもしれません。落ち着いて作品を鑑賞できる場所でした。外部に出ると善光寺方面へ向けて芝生広場が広がっています。美術館と一体となったような綺麗なランドスケープで、様々なデザインのストリートファニチャーや遊具も、多様な人々がゆっくり時間を過ごすのに良さそうでした。残りの時間で善光寺周辺を軽く散策した後、帰路につきました。行楽シーズンの長野という事もあり、各地のにぎわいを感じながらの良い視察旅行となりました。


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