金沢建築視察。
先月の28日、所属する下新川建築士会の金沢建築視察に参加してきました。朝から車のオートライトが点灯するような曇り空で、ジャンボタクシーが金沢に入った頃には結構な雨模様となりました。最初の視察先は金沢海みらい図書館(設計:シーラカンスK&H)です。白い立方体に小さな丸窓が全面に配された外壁(パンチングウォール)は、この建築を印象づける要素です。特徴的な外観は施設のロゴマークのデザインにもなっていて、丸窓は全部で6000個もあるそうです。エントランスを抜けると、半地下レベルに設定された交流ホールがあり、活動の様子をガラス張りの壁面から眺めることができます。1階の総合カウンターと児童図書コーナーは清潔感のある雰囲気でした。そして中央コア部分の螺旋階段を昇ると、2階の一般図書コーナーに出ます。広さ45m×45m、天井高12mの巨大なワンルーム空間は、外周部のパンチングウォールから差し込む均一で柔らかな光と、白やグレーといった無彩色の仕上げ、図書館ならではの静けさが相まって、礼拝堂のような不思議な雰囲気でした。吹き抜け空間に面した3階のテーブルコーナーは大空間を見渡せる場所で、人気があるそうです。外部の様子が見えるほど丸窓は大きくないので、自分の世界に入って集中するには良いかもしれません。
地元の豪商・銭屋五兵衛の記念館を見学した後は、金沢港クルーズターミナル(設計:㈱浦建築設計)へ。金沢港の新たな海の玄関口として、2020年にオープンした施設です。4000人の出入国手続きを2時間以内で対応できるCIQ(税関、出入国管理、検疫)エリアと展望デッキの広い空間は、運動会でもできそうなくらいの場所で、各種イベントに活用しているようです。クルーズ船が停泊していない日だったので、なおさら広さが際立っていました。海やクルーズ船を眺めながら食事が楽しめる「海の食堂 Bay Arce」は、窓際の席がおすすめです。
市街地に入ってからは、忍者寺とも称される日蓮宗の妙立寺を視察。加賀藩と徳川幕府の緊張が続いていた江戸時代に建立され、木造4階建て7層という複雑な構造と、落し穴などのからくりで、敵からの襲撃に備えていたそうです。内部を案内されながら巡っていても、自分の居場所がよく分からない感じがしました。外国人の観光客も多く、英語を交えた案内もこなれたもので感心してしまいました。続いて訪れた大樋美術館は、茶道具で有名な大樋焼の美術館で、350年間にわたって受け継がれてきた大樋長左衛門の作品が展示されていました。茶道や焼物に見識のない者からすると、展示品の価値を理解するためには勉強が足りないことを実感するばかりでした。
最後の視察先は金沢建築館(設計:谷口吉生・谷口建築設計研究所)。金沢市ゆかりの建築家・谷口吉郎氏と設計を担当した長男の吉生氏の記念館で、吉郎氏が暮らしていた住まいの跡地に建設されています。谷口建築らしいモダンでシンプルな佇まいで、使用する色や素材の種類を抑えながら、景観に配慮した紳士的な建築だと感じました。また、内庭や水庭など自然の要素を周りの景色を切り取りながら見せるのは、昨年見学した谷口建築の鈴木大拙館でも同様で、季節によって移り変わる景色が楽しめることでしょう。2階の常設展示室には、1974年に吉郎氏の設計により建てられた、迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭」の広間と茶室が再現されています。外国の賓客に日本の「家」と「庭」が持つ美的特性を紹介することを目的とされており、施工は迎賓館と同様に水澤工務店が担当しています。2010年から現状の調査、実測などの資料を作成されていましが、忠実な再現(写し)には様々な課題があったようです。設計図や施工図は完全に残っていても、最終的には大工さんが原寸を描きながら細部を決定しているため、何度も和風別館に足を運んで確認したそうです。また法規や設備、材木の確保などは、40年前と状況が大きく変わっています。そういった中でも、当時余分に確保していた木材が倉庫に残っていたり、床の間の地板の漆仕上は当時の職人と同一人が手掛けるなどの幸運な出来事もあったという事でした。細やかな部分まで考えられた繊細で美しい空間ですので、是非多くの方に見ていただきたいです。
秋の行楽シーズンということもあり、金沢市街は観光客で非常に賑わっていました。活気ある街の雰囲気を感じながら、多様な建築を見学できる貴重な機会でした。