大阪にて その①。
6月の末に大阪に行く機会がありました。黒部宇奈月温泉駅から北陸新幹線の始発に乗車、敦賀駅からはサンダーバードで大阪駅まで、3時間程度で到着です。北陸新幹線の大阪延伸後は2時間程度になるそうで、随分便利な時代になったものです。例年通りの気候であれば、梅雨真っただ中の時期で雨が心配でしたが、近畿地方の梅雨明けが6月27日に統計開始以降最早で発表され、雨よりも気温の方(この日は最高気温35度)が大変でした。日傘やハンディーファンは、もはや日本の夏の必需品ではないでしょうか。

大阪駅北側のうめきた地区は、元々は貨物梅田駅の貨物ヤードなどで利用されていたエリアでしたが、2000年代以降の貨物駅の廃止に伴い大規模な再開発が進んでいます。第一期の核となるグランフロント大阪が2013年に、第二期の中心となるグラングリーン大阪の一部が2024年に開業して話題になっています。商業施設やオフィスを中心とした高層ビル群が立ち並ぶ姿と、普段見慣れている入善町の田園風景との差がすさまじいので良い刺激になります。開業したばかりのグラングリーン大阪のうめきた公園内には、クリエイティブスペースの「VS.」とイベントスペースの「ロートハートスクエアうめきた」があります。

「VS.(ヴイエス)」は、安藤忠雄建築研究所が設計監修、日建設計が設計・監理を担当し、スタジオやカフェで構成されています。ガラスとコンクリートの2つの箱で構成された特徴的な外観の施設では「安藤忠雄展 青春」が開催中でした。緑の中を通り抜けるようなアプローチからシンボリックな「りんごのオブジェ」を見て中に入り、受付から地下階の展示室に進みます。個人住宅から国内外の文化施設、直島の一連のプロジェクト等の多くのスケッチ、模型、図面が展示されており、「住吉の長屋」に代表される初期の仕事から進行中の計画まで充実した展示内容でした。やはり実物のスケッチや模型を前にすると、写真では得られないエネルギーや情報量が感じられるので、貴重な機会でした。会場は週末という事もあってか多くの人で賑わっており、ショップスペースにはTシャツやトートバッグなどのグッズを抱えた人がたくさん見られました。平積みされた図録の一部には、安藤さん直筆のサインとスケッチが入っており、前日に来館し一日かけて描かれたそうです。百冊くらいありそうだったので、そのエネルギーに脱帽です。安藤さんは今年で84歳になるそうですが、近年の「こども本の森」等を通して、社会や若い人々に対する強いメッセージを発信し続けています。建築家が自らの費用で設計と建設を行い、自治体に図書館を寄贈する構想を数々実現されているのは、本当にすごいことだと思います。




うめきた公園は約45000㎡もの面積があり、大阪駅のような大規模ターミナル駅直結の都市公園としては世界最大級だそうです。経済合理性を優先した通常の再開発であれば、このような一等地を緑で覆ってしまう計画は実現し難いのでしょうが、大阪に緑が少ないことや、同じく貨物ターミナル駅跡地を再開発した東京の汐留エリアを反面教師として実現できたそうです。また緑地があることで、周辺の地価や街の価値が上昇することも期待されています。この日のような猛暑日ではこれだけの緑量があるだけで体感温度も随分違いますし、自由にくつろげる芝生スペースは非常に価値のある場所だと感じました。そして公園内の「ロートハートスクエアうめきた」は曲面の大屋根が特徴的な全天候対応型のイベントスペースで、設計はSANAAが担当しています。周囲のビル群とは対照的な佇まいは、緑豊かな公園と相まって、このエリアのコンセプトが表現されたようなデザインでした。この日は歌手Superflyのフリーライブが行われており、多くの人が集まっていました。ステージエリアは見ることができませんでしたが、ライブを鑑賞できたのは良かったです。公園として整備されなければ、このような使われ方もできなかった事でしょう。
