2つの博物館 in 福井。

 先月の金沢建築視察の際には、金沢の観光地としての人気に改めて驚かされました。これにはやはり2015年の北陸新幹線開通の影響も大きいでしょう。そして2024年春には北陸新幹線が延伸し、金沢から福井県の敦賀までのルートが開通します。これにより富山、石川、福井の北陸3県がそれぞれ20分程度で移動できるようになります。海外や県外からの来訪者からすると、県境が意味をなさない北陸県としての楽しみ方が増えるのではないでしょうか。「シンホクリク」と言われることもあるようですし、そのようになってほしいのが本音です。先日、福井に出かける機会があり、2つの博物館を見学してきました。

福井県年縞博物館
福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館

 福井県年縞博物館(設計:内藤廣建築設計事務所)は、若狭町の三方湖、水月湖のほとりにある博物館で、2018年に開館しています。年縞とは湖の底に堆積した泥の地層で、季節や気候によって異なる有機物や鉱物が毎年積もることで縞模様になっています。1962年に三方湖の近くで縄文時代の遺跡である鳥浜貝塚が発見され、1991年に研究の一環として行われたボーリング調査により水月湖の年縞が発見されました。以降の本格的な調査により、この年縞が45mもの長さで、しかも崩れることなく縞を保っている状態であることが判明しました。水月湖の年縞は1年あたり平均0.7㎜で、博物館には2017年から7万年前までの年縞が展示されています。様々な条件が重なったことで外的な影響を受けずに堆積した年縞は世界的にも稀であり、化石や遺跡などの年代測定法の較正モデルとして採用されています。それ故、水月湖の年縞は「世界標準のものさし」と呼ばれています。

 

2階展示室 45mの年縞が横に並ぶ
1階ピロティ空間

 博物館の一階は、ピロティ空間とエントランスになっています。杉板の型枠を利用した柱は、素材はコンクリートですが、その表情と曲面形状により建物を支える樹幹のような印象。視線が抜けている事も影響して、上部の大屋根とガラススクリーンのスッキリとしたデザインを際立たせています。ピロティ形状なのは湖の洪水に備える意味もあるようです。年縞シアターを見た後、2階の7万年ギャラリーへ進みます。45mの年縞を横に並べている72mの細長い展示空間は、コンクリート、鉄、木の3つの材料を組み合わせることで構成されています。中央のコンクリート壁にはステンドグラスに入った年縞が展示され、その上部には鉄骨の鋼管トラスが乗っかっています。そして傘骨のようなトラスが木の登り梁を支えています。両側にも鉄骨の柱はありますが、径が細いためガラススクリーンの透明感を遮ることはありません。トップライトもあり十分な明るさを確保していました。現しのハイブリッド構造が合理的に組み合わされているため、そのまま美しい意匠になっていることが印象でした。また隣には若狭三方縄文博物館(設計:横内敏人建築設計事務所)があり、こちらは大地に埋まったコンクリートの地下空間のような雰囲気で、縄文文化に触れることができます。

年縞博物館 外観
若狭三方縄文博物館 展示室

 旧石器時代や縄文時代の文化に触れた後は戦国時代の遺跡へ。昨年開館したばかりの一乗谷朝倉氏遺跡博物館は、年縞博物館と同じ内藤廣建築設計事務所の設計です。一乗谷朝倉氏遺跡は、戦国時代に越前国を5代にわたって治めた朝倉氏の館や周辺の城下町が遺跡となって残されたものです。大河ドラマ「麒麟がくる」や「ブラタモリ」で一乗谷朝倉氏が取り上げられ、認知度が高まった事や新幹線開通のタイミングもあってか、非常に力を入れて整備されているように感じました。博物館建設の事前調査で見つかった石敷遺構をそのまま展示した空間、城下町の巨大なジオラマ、朝倉当主の館の一部を原寸再現など、ダイナミックで見ごたえのある展示が続きます。博物館はこれらの展示を覆う、大小の切妻屋根が連続する形態となっています。周囲の田園、山林の風景に対して、スケールは違えど街並みを想起させる連続屋根は、シンボリックであり印象に残ります。この形状は博物館のロゴマークにも取り入れられています。今回は博物館の見学のみでしたが、機会があればこの先の武家屋敷地区などにも足を延ばしたいと思いました。

切妻屋根が連続した外観
ガラス越しに見えるのは朝倉館の原寸再現

 2つの博物館の見学を通して、福井の優れた歴史遺産の一端に触れることができました。さらに福井には年間来場者が90万人を超える福井県立恐竜博物館があり、こちらはリニューアルしたばかりです。来年の春には益々多くの人々が福井県を訪れることになるでしょう。是非とも富山県にも足を延ばして頂きたいものです。