つくる と すてる を考える。

 日頃の生活の中で、環境に配慮した○○といった言葉に接する機会がますます増えてきました。企業や行政からはSDGsやsustainableといったワードが様々な情報媒体を通じて発信されていますし、これらのテーマにいかに取り組んでいるかが、人々から選ばれる評価基準にすらなっているのではないでしょうか。ファッションやアウトドアウエアの中には、本来は廃棄される素材を再利用したり、プラスチックごみの削減に代表されるように、自然に還らない素材を採用しないといった取り組みがあります。あらゆる業種で求められているテーマではありますが、大量の資材を投入、廃棄する建設業界では尚更の事でしょう。

 建築物を形作る素材に目を向けると、木や石といった自然材料や自然由来の原料のみを使用している建材については、そのまま土に還るものや、特別な処理が不要で、安全で容易に再利用や処分ができるものが多いです。古い家屋の床下や小屋裏では、柱や敷居に使用されていた材木が再利用されている光景は珍しくありませんが、鉄やコンクリートでは同じようにはできません。そして家屋の解体や改修の際には、よく見られるのが、剥がされた石膏ボードです。

 住宅の壁や天井の下地材などに広く採用されている石膏ボードは、石膏を板状に整形して、表面に紙を貼った建材です。ホームセンターなどで誰もが購入できる身近な建材であり、耐火性や遮音性に優れ、安価で施工性も良いのですが、廃棄処分は容易にはできません。石膏は硫酸カルシウムを主成分とする天然の鉱物ではありますが、紙に付着した糊や周囲の木くず等の微量の有機物が、廃棄の際に微生物により分解される過程で、人体に有害な硫化水素が場合によっては高濃度で発生する可能性があります。過去にはそれが原因の事故も発生しており、廃石膏ボードは有害物質の処理施設などを設置した管理型最終処分場での処分が義務付けられています。また廃石膏ボードの排出量が年々増加している一方で、処分場の容量は限られており、処分費用も高騰しています。ちなみに、12.5×1820×910㎜(重さ約14㎏)の石膏ボードはホームセンターでは700円/枚程度で購入できますが、事務所の修繕にともない発生した石膏ボードを近隣の受け入れ施設に持ち込んだところ、料金は150円/㎏で、枚数あたりに換算すると2,100円/枚となりました。処分環境の状況やコストを考えると、当然のように採用する前に、少し考えなくてはいけないのかもしれません。

 古い民家などでは、柱と柱の間に竹や細木を格子状にわらの縄で組んでいき、土を複層に塗り込んだ土壁や、それを下地とした漆喰壁を見ることができます。このような自然素材は人体に対して害がないだけでなく、調湿や蓄熱など室内環境を快適に保つうえで重要な性能も有しています。そして土壁は化学物質が含まれていない自然素材なのだから、廃棄処分は容易で、田畑にでも戻せばよいのではと思いたいのですが、土壁に混じっているニガリが作物の成長を阻害してしまいます。また可燃材であり腐敗もする藁やスサが混じっているのが理由で、現状では先述の石膏ボードと同じ管理型処分場での処理に位置付けられています。昔は、家屋の解体時に出た土を別の土壁として再利用していたようなので、そういった事が出来れば一番良いのかもしれません。蔵の解体時に出た土を母屋の土壁として再利用するなど素晴らしいことだと思います。

 廃材の新たなリサイクル技術が確立されて、受け入れ体制が発展していけば良いのですが、物を廃棄するということは今後ますます慎重に考える必要があるでしょう。そしてあらゆる場面で、再利用を意識した選択が求められるのではないでしょうか。建築物に限らず、形あるものはいつかは壊れますし、壊さなければならない時が訪れます。造る時から壊す時、そして棄てる時のことを考えるのはつらい部分もありますが、自分たちの子や孫の世代の負担を少しでも軽減するためには、非常に大切な事ではないでしょうか。